山原船。
不肖ながら初めて読了。中野北口にかつて存在した小さな泡盛酒場”山原船”と店主のドキュメンタリーです。
この人もこの場所も知っている。
この本に登場する殆どと出会って来た自分ですが、
大きな違いは10年前中野を訪れた時にはもう”山原船”はありませんでした。
メニューは酒とチャンプルーだけ、お会計は自己申告、ネズミが走り回り… それでも満員の賑わいの不思議なお店だったそう。
東京中野に密やかに存在した沖縄の輪の、拠り所の一つだったのだと思います。
「なんで沖縄と無関係な君が沖縄民謡を唄っているのですか?」
と言うのは当然のように最も頻繁に受ける質問です。
勿論三線が好きだからであり、それ以外に答えは無いものの、敢えて言うならばたまたま出会った街が中野だったから。
しかし、それを分かりやすく伝える術が無くモゴモゴと口ごもってしまうのです。
あの街で沖縄の方々が暮らし、芸能を受け継いで来られた長い歴史には流派や権威を介在しない想いの深さが満ちていて、
沖縄でもなく中野育ちでもなく、二重の意味でヨソ者な自分には勿論それを受け継ぐことなどは出来ず、それでもただ感じていました。
そのことが沖縄芸能へ足を突っ込んでしまった自分の意識を中途半端にさせてくれなかったのでした。
時代は流れ、街並も変貌し、沖縄と東京の関係性も大きく変化し、中野の街をエイサーが練り歩くようにもなりました。
何度も話に聞かされた”山原船”で一度飲んで見たかったのは一生叶わぬ夢ですが、
育てていただいた中野を1ヨソ者として、これからも大好きでいたいと思います。